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「就活、STEAM教育…」安田洋祐先生に何でも聞いてみた (前編)

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ゆきりん

Edited by  ゆきりん

@ykringum
外語 / 4回生ループ

以前からお会いしてみたかった阪大経済学研究科准教授・安田洋祐先生のインタビューに成功しました!

就活ルール変更、昨今の文系学問、大阪はこれからどうなるのか、留学する意義など、この機会なので最近気になっていることを何でも質問しました。前編・後編に分けてお届けします。

安田先生のプロフィール(https://sites.google.com/site/yosukeyasuda/jp)

安田先生のプロフィール(https://sites.google.com/site/yosukeyasuda/jp

 

就活ルール変更で就活はどう変わるか

ーー就職活動における今後の変化を教えてください。

今までは就職活動スタートのタイミングが決められていました。経団連がそれをやらないことになって、ある意味自由になったんですよね。一部の人が心配しているのは、企業同士が青田刈りをどんどんやっていくと就職活動スタートのタイミングが前倒しになってしまうことです。

でも、そこまで前倒しになるのかは疑問に感じています。今は新卒の就職活動は非常に売り手市場です。そんな状況で企業が早めにオファーを出したら、学生は後から採用活動をした企業に移ってしまうかもしれない。企業が早めに囲い込むメリットは内定を出した学生が他の企業に行かず自社に必ず来てくれること。しかし、それをしない学生たちが出てくると仕組みとしては崩壊します。

 

売り手市場の今、良いオファーは阪大の学生にもたくさん来るし、東京のほうの大学だとそもそも大手企業に行かないでベンチャー企業に就職したり、自分で起業する学生が増えています。だから、そういう意味であまり前倒しは起きないんじゃないかと思っています。

あとは就活の最近の傾向として、企業側も積極的に取り組んでいるインターンがありますよね。教員としては言いにくいけれど、学生としてはチャンスだと思うので、興味がある学生は積極的にそういうことをしたらいいんじゃないかな。

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ーーほぼそういったことは東京で行われるので、交通費や宿泊費など地方学生にとっては負担が大きい面もありますが、どうお考えですか?

たとえばですが、関東圏以外の学生が「インターンや就職活動をするまでに費用がかかりすぎる」と主張する学生運動をやればいいと思うんです。

 

阪大生だったら総長に言ってもいいし、クラウドファンディングを立ち上げて「自分たちはやる気もあるし優秀な学生だけど、大阪から東京に行くのが大変だから支援してくれ」という挑戦をしてみても面白い。

たとえば、旧帝大の学生たちと連携してそういうクラウドファンディングを立ち上げるとか、すごく面白そうじゃない?

問題を自分たちで定義してお金を集めるというのは筋が良いし、集まった資金は就職後にでも何らかの別の形で返せばいい。

 

成功したらお金の負担は減るし、失敗してもなにか主体的にプロジェクトをやった、という経験は形として残ります。どっちに転んでも得るものはとても大きいと思う。

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ーー先ほど売り手市場とおっしゃいましたが、大企業では年々倍率が上がっているとも聞きます。

阪大生は大企業志向が強いですが、周りの大人たちの20~30年前の価値観に捉われすぎな気もします。ベンチャー企業の動向とか、直近だとFintech界隈やAI、IoTを使ったビジネスをやっている面白い企業に敏感にアンテナを張り巡らしてほしいです。

就活時期が始まってから、慌てて就活本を読み始めたり親に相談したりする大学生が多いと思うけれど、それだとものすごい情報が偏ってしまうんだよね。

 

もし今22歳だったら?

ーーちなみに、先生は今22歳だったらどこに就職したいですか?

経済の分野に進学するかはさておき、やっぱり大学院に行くんじゃないかな。もう20年近くも前だけど、当時自分が選んだ道はそういう意味では間違っていなかったと思う。何でかというと、ある程度高いレベルの専門性を持っていることが、社会に出た時に大きな強みになる。そんな時代に世界中がどんどん変わってきているから。

 

サークルや部活とか熱中するものがある人はいいけど、とくに見つからない学生さんも多いと思います。今だったら、ディープラーニングとかブロックチェーンの仕組みなんかを自分で勉強してみたらどうですか。騙されたと思って、流行りの分野の新しいスキルをどんどん吸収していく。そんな一歩をとりあえず踏み出してみるのも悪くないんじゃないかな。

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いま話題のSTEAM教育

ーー人文社会科学系の学問について昨今の状況は厳しいものがありますが、経済学の意義をお聞きしたいです。

マクロ経済政策、たとえば金融政策の効果を検証するために、東日本と西日本に分けて金利を変えるみたいな、理系の多くの分野でお馴染みのコントロールされた実験はできません。そういう意味で、経済学や人文社会科学の限界は大きいと思う。

でも、観察されたデータからその背後にある「原因と結果」を検証したり、インセンティブの視点から望ましい制度を設計したり、といった分野は大きな成果も挙げています。

 

ーー私は色々あって文系での院進を諦めてしまったんです。。。経済とは限らないとおっしゃいましたが、もし今だったら情報系に行くこともありえますか?

あるかもしれない。もし僕がみんなと同じ阪大を選んでいて、経済学部に入って「経済学の授業つまらないな」って感じたら、たぶん情報系か数学系の講義を聴きに行くと思います。もともと数学が好きで、高校時代も実は数学しかできなかったから…(苦笑)

理系分野はもともと興味はあったので、今だったら経済学部ではなくてそういった分野を勉強していた「かもしれない」なあ。でも経済学部にいて、経済の勉強を土台にしながらそういった学際的な勉強をすることもできるよね。 Fintechでブロックチェーンを使ったり、アルゴリズムを書いて実装できる能力はビジネスをやる上では必要なスキルです。

そういうスキルは経済学部ではなかなか学べないけど、結局ブロックチェーンで何をやりたいか、今の金融・経済のシステムをどういう風に変えるかという発想を膨らませるためには、経済学部で勉強するのがいちばん近道だと思う。

 

理系のエンジニアでそういう発想力がある人はいるかもしれないけれど、新しい仕組みを作ったときに使うのは人間なので、人々がどういう風に行動するかというインセンティブの問題や、それを使うことによって社会にどういうメリット・デメリットが発生するかという評価については、エンジニア的な発想で考えても限界がある。

上で挙げたFintechは、今いちばん文系理系が融合している面白い分野かもしれないよね。

 

 

ーー文理融合というのがこれから出てくる分野なのでしょうか。

ただ実はネックになることがあって、研究って論文を学術ジャーナルに載せるわけだけど、そこには古い慣習があるので、分野融合的な研究がまだあまり評価されにくい。

最初にビットコインを広めたサトシ・ナカモトさんみたいに、学会からの評価や名声とかじゃなくて、アイデアで世の中を変えることをやる、大学も民間も関係ないチームに文系学者も理系のエンジニアもいるっていうのが、これからの広い意味での研究スタイルになっていくのかもしれないですね。

 

ーー文系的な発想の価値を教えてください。

今世界的にブームになっているのが「アート」「デザイン思考」です。今まで経営者のスキルとして重要だと言われ続けていたのが「ロジカルシンキング」で、それはビジネス・マネジメント上の問題を理系的にクリアにしていく方法。

大学で理系分野だと、サイエンスがあってテクノロジーがある。理学部的なロジックで問題解決を図るのはある種方法論なので、それだけだと机上の空論になってしまう。現実にどうやってサイエンスの知見を役立てるかを扱う、実践的な学部として工学部があるわけです。

だから理学部と工学部は繋がっている。

 

https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/

理学部ホームページ:https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/

 

https://www.eng.osaka-u.ac.jp/ja/index.html

工学部ホームページ:https://www.eng.osaka-u.ac.jp/ja/index.html

 

ロジックがあり検証可能な理系的アプローチを経て、実際に社会に還元されるときに、工業製品が生まれたり、アルゴリズムになったりする。ざっくりいうと、これが昔から珍重されてきた理系思考な訳です。

ロジカルシンキングは、ある程度のトレーニングによって身につけることができるから、たとえばMBAで専門のスキルを磨いて、そういった人に経営者になってもらって企業経営を変えていきましょう、という流れが英米企業を中心にこの数十年はずっと続いています。

 

ところが最近になって注目されてきているのがアート・デザイン思考なんです。これはある意味文系的な問題解決方法で、企業でも社会でも何か問題があったときに「感性」で問題がどういうものかを見ようとします。

言語化して理詰めで分析していくのではなく、感覚的に問題を表現する。問題を捉えた後、自分の頭の中だけに留めておいてもインパクトがありません。そこで、サイエンスに対するテクノロジーのように、アートにも他の人たちに伝え社会へ広めていく手段が必要になってきます。それがデザインというわけです。

 

経済学部の同僚にも、「仕掛学」っていう面白い研究をしている松村先生という人がいて、彼は「デザインを活用して人々の行動をどうやって動かすか」を研究しています。

アートとデザインという感性に基づいた文系的な発想を、科学と技術という従来のロジカルなアプローチに組み合わせることによって企業業績も上がります。

それに、0から1のようなアイデアを生み出すのはアート的な衝動が強い、理詰め思考じゃ絶対に閃かない、と思う人も増えてきました。

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聞いたことあるかもしれないけど、一時期言われていた「S(Science) T(Technology) E(Engineering) M(Math) 教育」は、それにアートを加えた「STEAM教育」に変わってきています。

STEMという理系の素養はデジタル時代に必須のスキルなので、重点的に教育していくのは確かに正しいんだけど、STEMにアートが加わるとSTEMがますます生きる。アート的な方法論を身につけるのが重要というのが言われています。

たとえば哲学や歴史を勉強して昔の賢人たちの知恵をインプットしていると、それがポロッと現在のビジネスに役立つ瞬間が出てくるかもしれない。人文社会学系は、こうしたアート的な素養を育むことで、実際に役に立つことができると思います。

 

安田先生がメディアに出続ける理由

ーー情報発信している文系の方があまりいない中、安田先生は阪大の先生の中でもメディアに出続けていますよね。

情報発信をしている人は少ないけど、それはチャンスだよね。周りがやらないということは自分がやったときのインパクトが大きいわけだから。

周りが情報発信をしていれば自分も自然とそういうことをするんだろうけど one of them になってしまい、よほど特殊なことをやらない限り他の人と差別化できない。

だけど、すごく旧態依然としている分野にちょっと違う風を入れるだけで、その分野ですぐにオンリーワンになれる。

 

 

ーー先生がメディアに出ているのはそういった考えの下でしょうか?

メディアに出始めたのは理由があって、まず経済とかビジネスの話って世間一般の人たちからの関心が高いんです。たとえば経済やビジネスに特化した専門のニュースチャンネル・番組もあるし、本も書店の目立つ場所に平積みにされている。

世間からのニーズは高くて、ではそれに対してどういう人が情報発信しているかというと、経済学のトレーニングをきちんと受けていない人がやっているように見えたんですよね。僕は学生時代から「何で授業を教えている大学の先生たちが情報発信しないんだ」と不満に思っていました。

 

研究者として信頼できる目の前の先生たちは、論文を書くことに一生懸命で情報発信をしてくれない。彼らは思うところがあってそうしているのかもしれないけれど、結局きちんとした学者が情報発信しないと、うさんくさい人が間を埋めていくんです。

ニーズはあるので、もっともらしいことを書いたり、逆に学者じゃとても言えないような、「日本経済がV字回復する・奈落の底に突っ込む」「この政策をやればすべて上手くいく」といった極端なことを言う人には、一定のファンがついて売れてしまう。

 

経済学のイロハすら押さえていないような人が、専門家としてメディアに出ているっていうのがものすごい不満で、そのギャップを誰かが埋めなきゃいけないとずっと感じてました。たまたま自分が新聞やテレビに出始めるようになったときに、そうした使命感もあって、誰もやならいなら自分がとりあえずやってみよう、という気持ちは強かったね。

 

ーーすごく多忙になりますよね。

そうですね。使命感はあったんだけど、そうは言っても自分だけでできることは限られているし、あくまで自分の適性を生かせるメディアにやれる範囲で出ようと考えました。

あと、単に自分が出るだけじゃなくて、他の専門家も可能な範囲で巻き込もうとしました。経済学部の同僚である大竹先生が以前定期的に出演されていたEテレの「オイコノミア」という人気番組は、実は最初は、僕と大竹先生のふたりでスタートしています。

どういうことかと言うと、この番組がレギュラー化される前に、そのパイロット版として「真夏の夜の経済学」という実験的な番組が4夜連続で放送されたのだけど、僕と大竹先生がそれぞれ2日分を担当したのですね。

で、オイコノミアというタイトルで毎週放送のレギュラー化が決まったときに、真夏の夜の経済学を作ったふたつの制作会社が、それぞれ2週交代で番組を担当することになりました。大竹先生は基本的に全部自分で監修・出演することにした一方で、僕は若手を中心に他の経済学者の方々にも出演をお願いすることに。

 

こうすることで、頻繁にテレビに出るのは大変だけれど、何ヶ月かに1回くらいのペースで自分の研究に関係が深い内容をテレビの前で話すというカルチャーを広めたかったんです。日本大学の安藤先生、当時一橋大学で今は東京大学に移られた川口先生などに声をかけさせてもらいました。結局、彼らのほうが僕以上に頻繁にオイコノミアに出演することに(笑)

 

ーー安田先生はメディアに出るのが好きなんだと思っていました。

もちろん、好きじゃなきゃ続かないんだけど、出始めたきっかけはやっぱり使命感かな~。とは言っても、経済とは直接関係のない情報番組のコメンテーターなんかも引き受けているのは、テレビに出ているときに感じる楽しさも大きいと思います。

大学の講義とか学会発表なんかとは全然違う緊張感のもとで、しかも映像を通じて桁違いに多くの人たちへ向けて一斉に話せる、というのはやっぱり刺激的だしやりがいも感じる。

もともと学生時代から目立つのは好きでしたね。高校生から大学時代まではずっと金髪で、経済学部では仲間と一緒に100人くらいの大規模な飲み会を何度か主催しました。どの授業もいちばん前で受けていて、それで先生たちに顔を覚えてもらったお陰か、卒業式ではみんなを代表して卒業証書をもらいました。(*安田先生は卒業時、東大経済学部の総代)

 

 

ーーメディアに出て変化したことはありますか?

色んな分野の人たちと会う機会が増えました。メディアの中で接点ができるケースもあるし、メディアに出ることで知ってもらえて声が掛かるのも多いです。

それも良し悪しがあって、断りにくい仕事も増えるし、最終的に断る場合でも、メール・電話対応だけで時間的、精神的な負担がかかる。でも、そうじゃなかったら出会えなかった人はたくさんいるからね。(ご多忙の中取材を受けていただきありがとうございます!)

「経済学を広めたい」という本来の動機と関係ないものであれば、メディアに出る意味はないので、そういう仕事に関して言うと、メディアに出続ける執着心はありません。むしろ、「あの人はテレビに出たい人なんだ」と誤解を受けないように気をつけているくらい。

専門家として論文は書き続けたいし、大学の外で講演会や政府の委員に呼ばれるときも、メディアに出ている著名人としてではなくて、きちんと専門性を評価した上で声をかけてもらいたい。そうなれるように、自分をずっと磨き続けていきたいと思っていますね。

 

ーーー

 

安田先生にお忙しいところ貴重な話をうかがいました。次回は「大阪はどうなるのか?安田先生が考える大阪の未来について」です。

 

 

(取材・蒲生由紀子)

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