登録者100万人超のYouTuberである阪大基礎工学部卒の「はなお」さんと、人工知能研究会 / AIRの代表を務める現役阪大基礎工学部生の佐久間洋司さんとの対談の最終回です。
今まで2回に渡り、お二人の活動や考えていることをお届けしました。今回は、それを踏まえ、「時代が変化している今の生き方」についてのメッセージを阪大生へ向けて語ってもらいました。
#1 【はなお×佐久間洋司】阪大の異色のふたりが語ります!大人気YouTuberと若きAI研究者対談
#2【はなお×佐久間洋司】テクノロジーで変わる人間の感情。大人気YouTuberと若きAI研究者対談
若い人の感覚でウケる動画?

左:佐久間洋司さん、右:はなおさん
佐久間(以下、佐) 全部ではないですが、YouTubeの情動的共感、反応的な楽しさのウェイトは、テレビに比べるとはるかに高いんじゃないかと思っています。
たとえば、特徴的なYouTuberの口調で全く無意味なことを言って、実際には無意味なのに面白さが成立しているかのように見せかけたりしたらどうでしょう。
リアクションする声の音圧を急に変えたり、テロップが載ってジェットカットして間を詰めていったら、実は全く面白くないのに、例えば「なんでTシャツ着てんだよ!」って言うだけで、笑えるんじゃないかと思うんですよね。そういう効果って実感されてたりしますか?
はなお(以下、は) なるほど、すごい難しいね(笑)
いや、どうだろう、俺はよくやる拡大とか、その後のピンポンとか笑いどころをわかりやすくしているのはあるけど。
ーーすみません、拡大の後のピンポンってなんですか?
は 面白いセリフが出てきたら、その人物の顔だけアップして、そのあとにピンポーンっていう効果音を入れてツッコミが入る、典型的な俺の手法なんやけど、あれの繰り返しで、あれの密度が高ければ高いほどまとまっている動画だと思うけど、それがピンポンだけでおもろいかどうかは…。
佐 もちろんそれだけではダメで、そこは情動と認知のバランスなんですけど、反応的な感覚(情動的共感)なほうが若い子たちって好きなんじゃないかという可能性とか……?
は それはあると思う(キッパリ)。絶対あると思う。
佐 僕らよりもっと上の世代に対して、反応的な動画ってどこまで受け入れられるんだろうって思うと、「月曜から夜更かし」でもYouTuberの動画でも、僕らが感じている面白さと上の世代とでは違うんじゃないかって思います。
は でもテレビはあくまで万人向けに作るやん。若い人は絶対短いコンテンツのほうが好きやと思う。今YouTubeは10分超えたり、長尺化してるけどね。
俺はあまり意識していないけど、動画はあくまでハイライトでいいから、流れはわかるように。
会話の流れというか、置いていかないようなフェーズ。早すぎず遅すぎず、テンポの良い流れで伝えたい面白いところと、拡大とピンポンを上手いことどれだけコンボさせるかが、俺の編集の命題ではあるかな。
Twitterでバズらせたいときは、2分20秒って尺の中に面白い動画を入れるために最低限の情報を伝えるかとかは考えていたりする。そういうのは無意識に、情動的ななんたらを(笑)意識しているのかもしれん。
佐 もっと端的に言うと、その動画は中学から高校生向けに作られていると思うんですよ。
は いや、ターゲットが誰向けとか考えたことはないかな。
佐 あ、すみません。結果として見ている層が中高生になるのではないか?と考えると、
は 層っていうか、「お前らこう言うのが好きなんだろ?」っていうのはなんとなくで。
佐 むしろ、40代、50代の人が見るとしたら動画の作り方は変えますか?
は あー変えるかもしれんな。しれんけど、40代を受けさせる動画っていうのが何だろうっていうのがまずひとつ。
佐 40代の人に「同じネタ」を動画として見せるとしたときに、無意識にでもはなおさんが動画の作り方を変えるとしたら、僕の仮説が合っているという可能性は残っているんですよね。もしかしたらジェットカットの回数減らすとか。
は もうちょっと会話のテンポは落とすと思う、少なくとも。
彼らって早い情報に慣れていないと俺は勝手に思っているから、不足な文脈とか、普段なら切る説明のところをちゃんとして、理解度を100%にするっていうのを目標にすると思う。
動画のテンポとかよりも内容理解重視で、丁寧な動画になるという意味ではもうちょい落ち着かせるかも。
ーーはなおさんは、YouTuberの中でも編集に凝っているタイプだと思います。YouTuberで現にそういうタイプの人はいるのでは?
は いるけどそれは珍しいタイプで、彼らはどっちかというとテレビ寄りなんだよね。でも、現に彼らは大人の視聴者のほうが多いね。高校生とかあんまおらんかな。好きな人は長尺が好きなのかもしれんけど。
佐 「シグナルに反応する楽しさ」が中高生というか、若ければ若くなるほど強いのかなっていうのが僕の仮説です。
は そうやと思う〜!それは。
佐 はなおさんに無理やりYesと言わせるみたいな感じで、よくないですね(笑)
は いやいや、俺たちが無意識に感じ取ってたことを言語化してるところなんかなと思った。
それは人が気付けなかったことかもしれんから、なるほどそういうのがあったんかって。
感覚とコミュニケーションの変化

佐 人間の認知と共感の変化についてもとても興味があります。若い子に支持される動画をたくさん作っていく中で、これから先の僕らのコミュニケーションって変化すると思いますか?
は うーーーん、中身のない会話のほうが多いからなあ(笑)
佐 はなおさんが高校生のときと今の高校生は違うと思いますか?
は あー、俺友達おらんかったから、そもそもコミュニケーション取ってないねん。
ーー動画でもおっしゃってましたけど、本当に友達いなかったんですね。高校生というと今の積サー部員が年齢的には近いですよね。
は いたけど…いたけど…どういう会話してたんだろう?
単純に今の積サー部員たちとのコミュニケーションは、ジェネレーション・ギャップというか彼らの会話についていけへん(笑)笑いのツボが違うというか。
佐 トピックの違いですかね?
は いや、感性かな?
佐 年を経て自分たちが成長したのか、社会におけるコミュニケーションが変化したのか。
は 難しい問題だ。
佐 年老いちゃったからだとすれば、僕らの親世代が同じ悩みを持っていたはずですね。SNSとかが出てきてコミュニケーションが変化したっていうのだとしたら、そうとは限らない。
は 何が原因かは難しいよな。俺は感性の問題やと思うけど…。
佐 もし、はなおさんご自身の感性で作った動画が中高生に評価されているのだとしたら、感性とてもお若いということで、すごいですよね。
は うーん、あの動画誰にとって面白いんやろ?それがよくわからんのよね(笑)
年齢層は中高~大学生の24歳までで7割以上、25歳以上が25%くらいやけど。
ある程度会話の知的さなんかな?知的かどうかもわからんけど…。会話が漠然と面白いのかもとは言えるけど、何が面白いかはわからん。
ーー佐久間さんのほうが分析できるかもしれませんね。
は いや、マジで送ってほしい。そういうの。
佐 はなおさんのチャンネルを勝手に調べていたことがあって、はなおさんの動画のタイプを分けて分析したり……
は すげえ!
佐 ゲーム系、大喜利系、積サー・部活ドッキリ、シュール系、世の中に物申す、でんがんドッキリ、理系検証系、コラボ、勉強系、しょーちゃん、あるある実演系などそれぞれ……その分類の中であまり伸びていないのですが、僕が好きなのはオリジナルのゲーム系とシュール系です。特にシュール系は伸びないんですよね。
は それはわかる。
佐 僕はそれを共感の話で説明したいと思っていて、なぜ伸びないのかというと、話していることの声を抜いたら面白くないから。
シュールさを認知するというのは認知的ステップが必要で、視覚情報からの反応的な感覚(情動的共感)だけでは楽しくないという意味で、シュール系がウケずらいのかな?って。
はなおチャンネルより「【ご報告】オリンピック開催国が決まりました。」
例えば、はなおさんの東京オリンピックの動画でも、最後の30秒くらいで、でんがんさんがほうきょ!って踊り出すところから中高生に反応的にウケるとしたらウケるんです。
大人が見ているときは、「豊胸」って書かれたカードを出してくる時点で、〈本来なら東京と書いてあるはずの〉封筒から「豊胸」が出てくるというシュールさにウケます。文脈に反しているという、そのシュールさを面白いと感じるには認知が必要かもしれません。
最後の踊りを抑えめにして、カードを出した後でフェードアウトすれば、ただ封筒から「豊胸」って書かれた紙が出てくるだけの動画になって、大人には面白いのに中高生にとっては面白くなくなるかもしれない。
は そうかもしれん。
佐 そうだとすると、さっきの共感の話は成り立つかもしれません。
阪大生へのメッセージ
ーーさて、最後のテーマは「内向き志向な阪大生は変われるのか」そして、課外活動をしているお二人から後輩に羽ばたいてほしいということで「阪大生へのメッセージ」ですが、はなおさんも昔は内向きな阪大生だったんですよね。
は そうやね、内向きでも別にいいんやけど。阪大生は変わっていけるか…。
俺色んな本読むんやけど、これからは昔の当たり前を今何も考えずに行かんほうがいいと思う。まるでゴールかのように大企業に行くのは、この先は違うかな。

みんな同じタイミングで大学入って、就活して、企業行くっていうスタイルが崩れていく。頑張って勉強して阪大に入って、大企業行って勝ち組人生、っていうのはもう違うと思う。
これは俺が道を外れたからはあるかもしれんけど、絶対に、ひとつの会社でずっと働くっていうスタイルはなくなっていく。
今すごい時代の変化が起きていて、YouTuberもそうやけど色んな職業が生まれて、AIが(チラッ)普及してきたらねえ。
それによって、また新しい雇用も生まれるじゃないですか。それで取っても代わられてくるじゃないですか?(チラッ)
佐 はい(笑)
は おそらく10年後はまた結構変わっていて、正直俺も10年後どうしているか全然わからんけど、今までのルートでいたら自分が取り残されていくと思う。
どうせ変わっていくものだから、思考停止で守った人生をするのは違うかなと。
どんどん新しいことを吸収して、貪欲に自分のスキルを高めて、ひとつの会社に属さないワークスタイルが普通の時代になるから、今までの常識を取り壊してほしい。
勉強も何のためにしているのか目的意識持って。
とりあえず大企業っていうのは良いんやけど、そこでのうのうと暮らしていくんだっていうの、阪大生なら多そう。
佐 大企業だったり、既にあるものが潰れないって思ってるのかもしれませんね。
は 潰れはしないかもしれないけど、大企業でも変化について行けず、大企業的な年功序列な、固まった方針ばっかだったら大企業もやられていく。
いつでも身軽にフットワーク軽く組織に属す、または、組織に頼らず自分の能力に磨きをかけて生きていけるような勉強をしてほしいと思います。
ーー佐久間さんも同じスタンスですよね?

佐 そうですね、でもはなおさんにお目にかかってより強く思ったことがあります。
個人として生きなきゃいけないんですよね。何かに属するって感覚を中心に持ってしまっていると、勉強して就職して、大企業に入って働いたら偉いと感じてしまう。その感覚の何が危ういかというと、個に対して帰属する能力やラベルなどを増やすというより、どこかの一部として「存在させられていく」ことに繋がる可能性がある気がします。
は 大企業の悪い癖は、入ったらそれで終わりということ。知り合いからも聞いたけど、大企業で嫌なのは、ただ淡々と頭を使わずに普通に過ごすだけでお金がもらえて、それで勝手にある程度上まで行けて、会社に意識高い上司もいないこと。
なあなあになっても何となくいけちゃう、それでまかり通っちゃう。一部はすごい目的意識持って働いているのかもしれんけど、多くの人は、言われたことをやるだけで暮らしていけちゃう。
今まではそれで良かったけど、そればっかりやってると、いざなんか変化があるとやばいってなると思う。
佐 お忙しい中で、たくさん本とか読むようにしているんですね。
は 本は読むようにしていますね、俺は上司がいない中で、自分ひとりで成長していかなあかんと思っているから。
組織をどうやって育てるかとか、どうやって人を育てるかは興味があって、そういう意味では会社はすごい入りたかった。でも会社は会社のために働いてほしいと思っているけど、俺は自分のために働きたい。
佐 会社って自分で稼ぐ感覚じゃなさそうですよね。はなおさんの場合は動画やコンテンツを作られて、それに対してお金が支払われるじゃないですか。僕も講演とか委員をして、あるいは作った成果物に対してお金が入りますけど、会社だと自分の働きと入ってくるお金の関係が見えにくい。何かをしたことに対して稼いでいるという感覚がないのかもしれません。
は まさしく、自分が何やっているのか実感できないのが嫌やなっていうのもある。大企業やったら、このプロセスのここをやった、みたいになるやん。
YouTubeは自分が作ったものが即コメントで評価されて、数値にも反映されてわかりやすい。面白いという一言のためだけに頑張れるし、考えたら考えた分だけ再生数伸びるのが単純でわかりやすくて、俺は4年間飽きたことは1回もない。これからも自分が面白い作品を作りたい。ほんま天職ですよ、これは。
君にしかない何か
ーー「自分たちにははなおさんや佐久間さんのような特別な能力や専門性がない!」と言う阪大生もいる気がします。
佐 誰しもスタートはゼロですよね。
は 俺もたまたまのところは強い、でも、この末やってみなわからんからな。4年間あるんやったら気になったことは色々やってほしいなって思う。
それで行動しない奴は「お疲れ!」って感じかな。動かへんかったほうが悪い。
ーーなるほど。。。
は 友達と無意味なこと喋ったりするのは全然いいんやけど、大学生って目的もなく過ごしている人が多くて、それはもったいないなって思う。時間の密度って若者が圧倒的に価値が高くて、人生100年って言われているけど、どれも時間の価値が一様で、今の1年と80歳における1年って全然価値が違う。
もしかしたら病気で動けなくなってるかもしれんし、今は何でもできる1年のほうが、圧倒的に価値が高い。年を取るにつれ家庭も持ち、老いによりしたいこともできなくなっていくとしたら、時間の価値は指数関数で、今が一番高い。
自分の成長やスキル磨き、新しい体験をしないと、気づいたら就活して、「自分何してきたんや」ってなって「とりあえずいいとこ行けたらいいや」って、のうのうとなる。
人生自己責任だからそれでいいならいいけど、そんなん言って怠けているんやったら何かしろやっていう。そこはちょっと厳しくいきたい。

佐 中学校や高校でも講演するんですけど、今おっしゃったこととかなり同じこと言っています。はなおさんみたいに実体験が伴ってないのに申し訳ないんですけど……。
は 伴いまくりやで。
佐 ひとつだけ添えさせてもらうとしたら、今、大学生は何を考えたらいいかについて、「自分の人生のプレイヤーが自分であるという感覚を持たなきゃいけない」「主体的でありたい」とかよく話しています。誰かの人生を生きるって感覚に陥ると、今おっしゃっていたことに気が配れなくなるのかなと。
今回の対談でも色々なお話を伺えてとても勉強になりました。自分の人生に責任を持つのは自分だけだし、楽しくできるのも自分。自分が主人公であるという感覚を持てるとしたら、変わるチャンスだと思います。
は 俺自身、今回の対談は楽しかったし、情動的と、何やったっけ?(笑)そこはひとつ動画を作る上で参考になるポイントかな、というのは思いました。ありがとうございました。
そして、何かしら個人の「君にしかないもの」はあると思う。見つけてないだけで、見つけることに怠惰になってる。ただ動いてないだけ。
人のこと言えないんですけど、頑張れってことは読者の方に伝えたいですね。
後日談
はなお、佐久間洋司というふたつの異才が出会った日のその後、佐久間さんが主宰するイベント「NEXT DAY 2019」に、はなおさんがゲストとして登場するなどのコラボもありました。
トビタテ!留学JAPAN プロジェクトディレクターの船橋力さん、ベストセラー「人工知能と経済の未来」の井上智洋先生、大人気理系YouTuberのはなおさん、アーティストでSatellite Youngを主宰する草野絵美さんをゲストとしてお招きします! https://t.co/vHYpaJa8Rz
— 佐久間洋司 (@hiroshi_skm) January 8, 2019
これからもお二人の活躍に目が離せませんね!
(取材:蒲生由紀子)